不正事例:販売したワインを秘密裏に取り消して会計していた事例

不正事例

営業中に売上が減るという事は?

実際に私が経験した不正事例です。

概要を説明しないと、その後のお話が不明瞭になるので、
簡単にお店の構造とオペレーションを記載しておきます。

※店舗は3フロア構成。

1F:エントランス及びレセプション、バー及びバーカウンターが設置されているフロア。
アペリティフやお食事も楽しめるテーブルが数個設置されている。
レセプション含めホール4人で運営。

2F:メインダイニング。ホール5人で運営。

3F:屋上になっており、夜景と共に、食後のデザートやカフェ、お酒も楽しめるソファーがある。
ホール1人で運営。各フロアからヘルプに行くこともあった。

お客様は、1F、2F、3Fとそれぞれの場所を移動しながら、
フロアごとに楽しんで頂くスタイルで人気を博していた。

※月間売り上げは仮に1800~2200万円くらい。
日商50~80万円の幅があると設定しておきます。

※お客様がフロアを移動する際に、伝票のテーブル番号も移動していく。
例えば1Fは101~、2Fは201~、3Fは301~という風に、
一組のお客様が来店されたら、伝票はフロアごとに都度テーブル変更していく。
という特殊なオペレーション。

※客単価1.5~2万円平均。ワインリストは1~2万円台の価格帯がメイン
高額なワインが開く事も多々あった。

※POSはワークステーションと呼ばれる設置式の物を3フロア全てに使用。
(スタッフが個々に持つハンディタイプではない)

 

該当店舗へ店長として赴任して数週間後、営業中にレジでPOSの機能の、
簡易売上チェックをしている際に、ほんの15分前にチェックした際から、
売上金が1万円弱ほど減っている事に気付く。

売上が減る=【一度売り上げた商品の何かを取消】

したという事なので、何らかのお客様への不備があったと解釈。
そういった報告が店長である自分へ無かったので、
誰かがミスしたことを内密に処理しようとしたのかと推測、
取消した内容を調べるために、POSの動作ログを確認する。

結果、一度売り上げられていたワインが取消されていたことが発覚。
ログ上では取消した担当者はわかるが、
どのフロアにあるPOSかまでは、記載されていない。

 

基本的にお客様のワインを売り上げることが多いのは、
1Fのテーブル、バー。もしくは2Fのメインダイニング。
3Fの屋上で新しいワインを売り上げることはほとんどなかった。

該当ワインを売り上げたのは、テーブル番号を遡ればメインダイニングである場所。
取消されていたのは、すでにお食事を終えられ、屋上へ移動し、
残りのワインとデザートを楽しんでいたテーブル番号。

したがって、取消をしたのが3F屋上でのPOSからの操作と思われたが、
前述した取消した担当者は、POS上のログではメインダイニング、
すなわち2Fのスタッフであった。

そのスタッフが2Fから移動して3Fへ行くことができない状況であった為、
軽く「あのワイン問題なかった?」と状況を確認すると、
はい、お喜びいただけましたよ。」という答え。

その2Fスタッフの反応から何の違和感も感じられなかったため、
これはミスをしたことを内密に処理しようとしているのではなく、
とっさに不正の可能性があることを悟り、慎重に調べを進めることにする。

 

1:前述のように3フロアからなる箱だったが、
最終的にお客様が行くのは、ほぼ3Fの屋上のフロア。
なので3Fで会計をされることが多かったが、
会計ができるPOSを導入しているのはレセプションのある1Fのみ

3Fフロア担当のスタッフは、逐次1Fまで降りて来て、
レセプションスタッフにお会計をお願いするという、
非効率なオペレーションだった。

2:そのため、いつも3Fに入る、とあるスタッフは、
自前でお釣銭を用意しており、現金会計で領収書を求められるお客様には、
POS上では終了していないが、先に自分の釣銭金で会計を行い
領収書を発行
し、会計を終了させていた。

カード決済はその都度1Fに降りて来なければ出来なかったので、
カード会計が入る度に、既にお客様会計の終わっている、
複数の現金会計をまとめて持って降りて来て、
POS上の決済を終了させるという状況を、
店長である自分は可哀想だなと思いながらも把握していました。

3:本来アイテムが取消された場合、
その取消したことを知らせる伝票が、該当プリンターから印字されるはず。
キッチン、バー(カクテルやドリンク)はできていたが、
なぜかワインだけが確立されていなかった

すなわち、3Fスタッフは、
【自分で先に会計を行える、現金で領収書発行】する伝票のものに、
めぼしいワインを見つけて、お客様との個人会計後に、
ワインを取消処理し、差引金額を着服後
1Fでの会計処理をしていた。という図式です。

4:しかも、その3Fスタッフは、ワインの取り消しが自分だと怪しまれないように、
ワインを取り消す際のPOSログインを、違うスタッフの番号を使用していた(※)
という徹底ぶり。

※=本来であれば、そのログインを他人が分からないようにする必要があるのですが、面倒な手法(端末ログイン用のカードを各自が持っていて、POSにスキャンする)だったため、簡易的に番号を入力すればログインできるというオペレーションに変更していました。
その番号を、各自誕生日など短い番号で設定していた為、全てのスタッフの番号がお互い筒抜けだったという背景がありました。

この後が大変でした。
上司に不正の可能性を報告し、該当スタッフと三者で面談、詰問し、
証拠を突き付けて、とうとう自白。

その後、伝票を遡ること、数か月間。
その3Fスタッフが在籍(出勤)していた期間すべてのログを洗い出して、
どれほどの不正をしていたかを調査。
最終的に被害額〇十万円という高額な不正でありました。

 

不正には、いくつもの要因がある。

~不正に至ったポイント~

1:非効率なオペレーションが不正発案の引き金
2:個人で終了させるお会計を許したこと
3:取消した際の確認の伝票が、印字されない設定になっていたこと
4:個人のPOSログイン番号を、他の人が流用できたこと

て、前任の店長が管理しきれていなかったことを発端に、
それで今まで運営してきたんだからと疑問に思わなかった後任店長の自分。
不正に至るプロセスをなくすこと、管理することこそが、
未然に不正を防ぐ大きなポイントであると痛感した事件でした。

実は、自分が後任店長として赴任してきた際に、
このスタッフは「核」となるスタッフに育てていかなければ。
と期待して、選んでいた一人でもありました。
なので、落胆もかなり大きかったことは間違いありません。

また、仕事のできる人は、不正の方法も気付いてしまうのだ。という事も学びました。

 

同僚のスタッフが、発覚後に漏らしていた言葉が、
「よく、『〇〇行った。そこでこんな良いホテルに泊まった。』って言ってて、同じ時給で働いているのに、なんでそんないっぱい金持ってるんだろうなーと思ってました。」でした。

よく不正する者は金遣いが荒くなると言いますが、事実だと思います。
そういった普段のレジャーや趣味、お金遣いに関する言動にも、
責任者はアンテナを立てておかなければいけません。

 

発覚後は示談の形をとり、そのまま在籍、系列の他店舗へ異動。
しかし後日、本人から退社希望をうけ、
念書を認め月々の返済を約束させて、自主退社という流れになりました。

誤解を恐れずに言えば・・・
大事なスタッフを不正に染めて、結果、退社してしまったという事実は、
不正を行ったものだけの責任ではないと思わされました。
管理者にとって、不正防止のオペレーション構築が如何に大事かという事例です。

自分にとって、不正にまつわる、一番の痛い思い出です。

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